プロジェクト紹介

細胞死制御因子による生体の恒常性維持機構

発生過程において計画的細胞死であるアポトーシスが生じることで、正常な発生が誘導されることが知られており、アポトーシスの異常は自己免疫疾患やがんなどに関与していることも示されています。また最近の研究では計画的細胞死(特定の遺伝子の機能により制御された細胞死)の中にはアポトーシスだけではなく、ネクロプトーシス、パイロトーシスやフェロプトーシスなどの細胞死が存在することが分子レベルで明らかにされ、心筋梗塞や脳梗塞時の傷害や、ウイルス感染の防御に関連していることがわかってきました(詳細はラボのホームページのエッセイ参照, http://tohobiochemi.jp/essay/index.html)。
 私達は、炎症や細胞生存に必須の転写因子であるNF-κBによる細胞死の抑制のメカニズムを解析する過程で、NF-κBはcellular FLICE-inhibitory protein (cFLIP)と呼ばれる細胞死抑制因子のタンパク質の安定性を保ち保ち、引き続いて起こる活性酸素産生や持続するMAPキナーゼの活性化を抑制することで、細胞死を抑制していることを見出しました (Sakon et al, EMBO J 2003; Nakajima et al, EMBO 2006; Nakajima et al, Oncogene 2008)。現在研究室の主なテーマは組織特異的なcFLIP欠損マウスを用いたcFLIPの生体における役割の解明、ネクロプトーシスのライブセルイメージング、cFLIPの分解制御機構の解明、非アポトーシス細胞死の形態学的解析などです。

1) 組織特異的cFLIP欠損マウスの樹立とその解析

  • ①組織恒常性維持におけるcFLIPの役割の解明
    cFLIP遺伝子を腸上皮細胞や肝細胞だけで特異的に発現を無くしたマウスを作製し、その表現型を解析しました。それぞれの組織特異的なcFLIP欠損マウスは生後1〜2日以内にほぼ全個体が死亡するということが判明しました(図1)。さらにこの時腸上皮細胞や肝細胞にはアポトーシスだけではなく、プログラムされたネクローシス(ネクロプトーシス)が誘導されていることを電子顕微鏡の観察により明らかにしました。このことからcFLIPと呼ばれる遺伝子はアポトーシスやネクロプトーシスをブロックすることで、腸管や肝臓の恒常性維持に必須の役割を果たしていることが明らかになりました(Piao et al, Sci Signal 2012)。この論文は「腸炎、肝炎の治療薬期待=細胞生かす遺伝子発見」の見出しで、時事通信や日刊工業新聞で取り上げられました。現在も様々な組織特異的なcFLIP欠損マウスを樹立し、細胞死の亢進がどのような病態をもたらすのかを解析しております。その後組織特異的なcFLIPマウスの解析から以下のような結果を得ています。
  • 参考1
  • ②肝死細胞除去における骨髄由来細胞の役割の検討。
    肝細胞でcFLIPの発現の低下したマウス(完全に消失させると出生直後に致死となるため)を用いて、肝死細胞の除去に関与する細胞の検討を行いました。予想外なことに肝臓に常在するクッパー細胞を除去しても肝死細胞の除去には何ら影響を与えなかったかったものの、骨髄から浸潤してくる単球や好中球を除去したところ、肝炎が劇症化し、アポトーシスに陥った肝細胞から大量のヒストンH3が血中に放出され、さらに放出されたヒストンが血管内皮障害に関与しているという現象を見出しました。このことはヒトの劇症肝炎などでも血中に大量のヒストンH3が放出されている可能性を示しており、ヒストンH3の毒性を中和するような方法が、劇症肝炎の新しい治療法となる可能性を示しています(Piao et al, Hepatology 2016, in press; 2016年10月28日プレスリリース,
    http://www.toho-u.ac.jp/press/2016_index/20161028-727.html)。
  • ③肝死細胞由来の新たなダイイングコードの同定。
    現在様々な肝炎モデルを用いて、肝死細胞から放出されるダイイングコードの同定を目指しています。
  • ④新生児期に生じる表皮分化障害のメカニズムの解明。
    cFLIPを表皮で欠損させると子宮内で致死となること、その致死はI型のTNFの受容体の欠損マウスとの二重欠損マウスを作成することで、レスキューされることを私たちは見出しています。さらにcFLIPs; TNFR1二重欠損マウスは生後すぐに重篤な皮膚炎を発症し、全個体が10日以内に死亡することから、現在皮膚炎発症のメカニズムを解析しているところです(Piao et al, 論文準備中)。

2) cFLIPsトランスジェニックマウスの解析
ヒトcFLIPをコードする遺伝子(正式名称はCFLAR)はcFLIPLとcFLIPsの2種類のタンパク質を産生しますが、cFLIPLはアポトーシスもネクロプトーシスも抑制するのに対し、cFLIPsはアポトーシスを抑制するものの、ネクロプトーシスを促進することが他のグループより報告され、我々も同様の現象を見出しています。そこで、in vivoにおけるcFLIPsの役割を明らかにするために、cFLIPsを過剰に発現するトランスジェニック(Tg)マウスを樹立しました(兵庫医大 大村谷教授、熊本大学 荒木教授との共同研究)。cFLIPs Tgマウスは胎児期に重篤な小腸炎を発症し、予想外なことに小腸の上皮細胞は主にネクロプトーシスではなく、アポトーシスで死んでいることを見出しました。胎児期に発症する腸炎であり、細菌感染は関係ないにもかかわらず、著明な好中球の浸潤が認められました。自然免疫系のある種の細胞を除去することで、腸炎が劇的に改善することから、この腸炎の増悪には自然免疫系の細胞が重要な役割を果たしていることを見出しております。cFLIPs Tgマウスの腸炎モデルの病態を解析することで、ヒト新生児腸炎を治療するための、新たな知見を得られるのではないかと考え解析しているところです。

3) ネクロプトーシスのライブセルイメージング
東大薬学部の三浦先生らは、カスパーゼ3やカスパーゼ1の活性化を指標としたFRET(Fluorescence resonance energy transfer)プローブを開発し、アポトーシス細胞のライブセルイメージに成功しています。しかしながら、ネクロプトーシスのライブセルイメージングはこれまで報告されていませんでした。私たちは最近FRETプローブを用いたネクロプトーシスのライブセルイメージングに成功しました(Murai et al, 論文準備中)。現在この技術を用いてアポトーシスやネクロプトーシスに伴い放出されるDAMPs (Danger-associated molecular patterns)のイメージングを行っているところです。

4) cFLIP分解のメカニズムの解明
cFLIPタンパク質は不安定であり、プロテアソームにより分解されることが明らかとなっていますが、その分解に関与するE3リガーゼはこれまで、ITCHと呼ばれている酵素だと考えられてきました。しかし、我々はその他の酵素の存在も十分考えられることから、独自にその他の酵素の機能解析も進めています。

酸化ストレスによる生体応答制御

活性酸素種(ROS)の産生亢進による酸化ストレスは、これまで単なる生体機能を障害する有害なものとして考えられてきましたが、現在では様々な生体応答に有益な役割も担っていることが明らかとなってきました。例えば、好中球などで産生されるROSは貪食したバクテリアの殺菌に重要な役割を果たしています。一方、 増殖因子などの刺激に伴い産生されるROSはMAPキナーゼなどの活性化を誘導して、細胞内に特異的な信号を発信してすることで細胞の機能を調節していることも明らかとなってきました。

参考1

 加えて、私達のグループは酸化ストレス依存性に産生誘導される遺伝子群を網羅的に解析する過程で、 誘導される分子のひとつとしてインターロイキン11と呼ばれるサイトカインを同定しました。そして解析の結果、このサイトカインが死んだ肝細胞から酸化ストレス依存性に産生・放出され、細胞増殖に関与していることを初めて明らかにしました(Nishina et al, Sci Signal 2012)。これは、抗がん剤などで“がん細胞を”を殺す時に、死につつある“がん細胞”から、IL-11などのような増殖因子が放出されている可能性があり、そのことが抗がん剤などに抵抗性になるメカニズムの一つではないかと概念につながるものです。
 さらに我々は、分子内に電子の偏りを持つ親電性分子のなかにもIL-11の産生を誘導するものがあり、産生したIL-11はこの親電性分子がもつ生体への毒性に対して抵抗性をもたせる分子であることを見出しております(Nishina et al, J Biol Chem 2016, in press)。興味深いことに、IL-11の機能欠損マウスでは通常の状態では不妊という表現系を示すのみに関わらず、疾患時にはIL-11の産生が亢進し重要な働きを担ってきていることが示されてきています。そこで我々は、これらの点を明らかにすることは生体の恒常性維持機構ならびに疾患を理解するうえで非常に重要であると考え、①IL-11がどのようなメカニズムで産生されるのか、②どのような細胞がIL-11を産生しているのかという点を明らかにする目的で研究を進めております。具体的には、生化学的手法、分子生物学的手法ならびに遺伝学的手法をもちいて産生機構を明らかにするだけでなく、IL-11を産生する細胞を光らせるようなマウス(IL-11 GFPレポーターマウス)の作製をすることで組織学的解析、イメージング技術を用いて、IL-11の生体の恒常性維持やIL-11産生細胞の発がんへの関与を明らかにしていきたいと思っています。

代表論文

  • 1.Piao X, Yamazaki S, Komazawa-Sakon S, Miyake S, Nakabayashi O, Kurosawa T, Mikami T, Tanaka M, Van Rooijen N, Ohmuraya M, Oikawa A, Kojima Y, Kakuta S, Uchiyama Y, Tanaka M, Nakano H. Depletion of myeloid cells exacerbates hepatitis and induces an aberrant increase in histone H3 in mouse serum. Hepatology 2016; doi. 10.1002/hep.28878.
  • 2.Nishina T, Deguchi Y, Miura R, Yamazaki S, Shinkai Y, Kojima Y, Okumura K, Kumagai Y, Nakano H. Critical contribution of NRF2 to an electrophile-induced interleukin-11 production. J Biol Chem 2016; in press.
  • 3.Piao X, Komazawa-Sakon S, Nishina T, Koike M, Piao JH, Ehlken H, Kurihara H, Hara M, Van Rooijen N, Schutz G, Ohmuraya M, Uchiyama Y, Yagita H, Okumura K, He YW, Nakano H. c-FLIP Maintains Tissue Homeostasis by Preventing Apoptosis and Programmed Necrosis. Sci Signal 2012;5:ra93.
  • 4.Nishina T, Komazawa-Sakon S, Yanaka S, Piao X, Zheng DM, Piao JH, Kojima Y, Yamashina S, Sano E, Putoczki T, Doi T, Ueno T, Ezaki J, Ushio H, Ernst M, Tsumoto K, Okumura K, Nakano H. Interleukin-11 links oxidative stress and compensatory proliferation. Sci Signal 2012;5:ra5.
  • 5.Ushio H, Ueno T, Kojima Y, Komatsu M, Tanaka S, Yamamoto A, Ichimura Y, Ezaki J, Nishida K, Komazawa-Sakon S, Niyonsaba F, Ishii T, Yanagawa T, Kominami E, Ogawa H, Okumura K, Nakano H. Crucial role for autophagy in degranulation of mast cells. J Allergy Clin Immunol 2011;127:1267-1276 e1266.
  • 6.Tokunaga F, Nakagawa T, Nakahara M, Saeki Y, Taniguchi M, Sakata S, Tanaka K, Nakano H, Iwai K. SHARPIN is a component of the NF-kB-activating linear ubiquitin chain assembly complex. Nature 2011;471:633-636.
  • 7.Piao JH, Hasegawa M, Heissig B, Hattori K, Takeda K, Iwakura Y, Okumura K, Inohara N, Nakano H. Tumor Necrosis Factor Receptor-associated Factor (TRAF) 2 Controls Homeostasis of the Colon to Prevent Spontaneous Development of Murine Inflammatory Bowel Disease. J Biol Chem 2011;286:17879-17888.
  • 8.Nakajima A, Kojima Y, Nakayama M, Yagita H, Okumura K, Nakano H. Downregulation of c-FLIP promotes caspase-dependent JNK activation and reactive oxygen species accumulation in tumor cells. Oncogene 2008;27:76-84.
  • 9.Nakajima A, Komazawa-Sakon S, Takekawa M, Sasazuki T, Yeh WC, Yagita H, Okumura K, Nakano H. An antiapoptotic protein, c-FLIP(L), directly binds to MKK7 and inhibits the JNK pathway. EMBO J 2006;25:5549-5559.
  • 10.Sakon S, Xue X, Takekawa M, Sasazuki T, Okazaki T, Kojima Y, Piao JH, Yagita H, Okumura K, Doi T, Nakano H. NF-kB inhibits TNF-induced accumulation of ROS that mediate prolonged MAPK activation and necrotic cell death. EMBO J 2003;22:3898-3909.
  • 11.Nakano H, Sakon S, Koseki H, Takemori T, Tada K, Matsumoto M, Munechika E, Sakai T, Shirasawa T, Akiba H, Kobata T, Santee SM, Ware CF, Rennert PD, Taniguchi M, Yagita H, Okumura K. Targeted disruption of Traf5 gene causes defects in CD40- and CD27-mediated lymphocyte activation. Proc Natl Acad Sci U S A 1999;96:9803-9808.
  • 12.Nakano H, Shindo M, Sakon S, Nishinaka S, Mihara M, Yagita H, Okumura K. Differential regulation of IκB kinase alpha and beta by two upstream kinases, NF-κB-inducing kinase and mitogen-activated protein kinase/ERK kinase kinase-1. Proc Natl Acad Sci U S A 1998;95:3537-3542.
  • 13.Nakano H, Oshima H, Chung W, Williams-Abbott L, Ware CF, Yagita H, Okumura K. TRAF5, an activator of NF-κB and putative signal transducer for the lymphotoxin-beta receptor. J Biol Chem 1996;271:14661-14664.

総 説

  • 1.Nakano H, Piao X, Shindo R, Komazawa-Sakon S. Cellular FLICE-Inhibitory Protein Regulates Tissue Homeostasis. Curr Top Microbiol Immunol 2015; doi. 10.1007/82_2015_448
  • 2.Nakano H, Nakajima A, Sakon-Komazawa S, Piao JH, Xue X, Okumura K. Reactive oxygen species mediate crosstalk between NF-κB and JNK. Cell Death Differ 2006;13:730-737
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